医学部入試の地域枠を受験する際には慎重に!2024年度の地域枠実施大学【全64校】
地方の医師不足を解消するために考えられたのが医学部入試の「地域枠」。
医師不足の地域で働くことを条件に、奨学金などを給付される制度です。
都会には多くの病院があり、「どの病院の評判がいいかな」と口コミサイトを調べて病院を選んだり、症状の重さによってクリニックや市民病院などを使い分けるのが当たり前。
しかし、田舎では病院が近くになかったり、あっても自分の掛かりたい科ではないこともよくあります。
今回の記事では、医学部受験の時に考えたい「地域枠」について説明します。
・地域枠ってどんな制度? ・メリットとデメリットは? ・地域枠を実施している都道府県・大学は?
「地域医療に興味がある」「奨学金を使って医者になりたい」という人は、メリットとデメリットを考えてから地域枠に申し込むようにしましょう。
目次
医学部地域枠の概要 返済不要の奨学金が貸与される代わりに9年間の勤務が必要
医学部の地域枠は、平たく言ってしまえば
「その県内の指定の病院で働くのであれば、返済不要の奨学金を貸与する」
という制度。
地方や田舎では医師が少ないほか、総合的に患者を診られる医師や産科、小児科の医師は全国的に不足しています。
その不足を補うために、その県でも医療が手薄な場所や、医師不足の地域で卒業後働くことを条件に、奨学金を給付して学生を募集するのです。
ほとんどは「奨学金をもらうかわりに、奨学金を給付してくれた県の医者不足の地域で9年ほど働く」ことを条件としています。
実際には「地域枠」と言っても様々な場合があります。
・奨学金あり+全国から募集 ・奨学金あり+地元出身者のみ ・奨学金なし+全国から募集 ・奨学金なし+地元出身者のみ(=地元民推薦枠)
大きく分けてこの4つのパターンがあり、大学によって1パターンの募集しか行っていないところや、「地域枠A」「地域枠B」とそれぞれを呼び数パターンでの地域枠募集を行っているところがあります。
受験枠としても推薦扱いになっているものと、一般入試枠扱いになっているもの、両方が存在します。
当然ですが推薦扱いの場合は公募推薦などとは併願できませんし、一般入試枠の場合は通常の一般入試と地域枠募集、どちらで受験するかの選択が必要になります。
推薦扱いの場合は、「現役・1浪まで」「評定平均4.2以上」などの条件が別途付く場合もあります。
また、地域枠を設定する県によっては、研修先や働く病院だけでなく、進路として選ぶ診療科が指定されていることも。
産婦人科や小児科、救急科など、特に人手不足が問題になっている診療科に進むよう要請されることが多いようです。
基本的には、以下の内容が地域枠の条件になります。
・卒業後、指定された地域の病院で9年間働かなくてはならない ・毎月奨学金を支給する。ただし9年間の任期後、奨学金の返還義務はなくなる
地域によっては、これに加え
「地元出身者(その県に居住している、高校がその県だった、あるいは両親や祖父/祖母がその県に住んでいる、など)である」
「特定の診療科(救急・産科・小児科・総合診療科など)に進まなくてはならない」
といった条件が付く場合もあります。
「地域枠」と一口に言っても県によって様々なので、自分が地域枠を利用したい県の要項、あるいは大学の入試要項を必ずチェックして入試計画を立てるようにしましょう。
ちなみに、県によっては地域枠入試以外にも地元出身者向けの医学部奨学金(こちらももちろん卒業後特定の病院などで働く必要があります)を設置していることもあります(例:千葉県)。
「絶対に奨学金が欲しい/地域に貢献する」という意志がある人は、そちらもチェックしてみるといいでしょう。
地域枠のメリット・デメリット どちらも大きい
「返済不要の奨学金がもらえるなんて、とても美味しい制度ではないか!」
とすぐに食いついてしまってはいけません。地域枠はメリット・デメリットともに大きいのです。
その両方を説明します。
メリット
・学費が抑えられる(月額10万円〜30万円程度が支給される) ・地域医療に貢献できる ・離島の診療所や僻地医療を通して、患者と密接につながることができる
地域枠の最大の魅力でありメリットは、やはり「奨学金」。
県によってはない場合もありますが、多くの場合奨学金と地域枠はセットになっています。
月額10万円〜30万円程度が支給されるので、6年分の合計だと約720万円〜2160万円になるでしょう。
多い例では新潟県地域枠で杏林大学に合格できれば月50万も支給され、ほぼ奨学金だけで学費を賄えます。
「経済的理由で私学の医学部は難しい」という人にも嬉しい制度です。
また、地域枠に合格すると勤務先として医師不足の地域に行かなくてはならないため、確実に地域の医療に貢献できます。
離島や僻地医療に興味がある、その道に進みたいという人にとってはキャリアを積む大きなチャンスとなるはずです。
医師不足の地域では都会の病院と違い、1人の医師でより多くのことをこなさなくてはなりません。
そのため、自然と幅広い疾患を診られるようになるでしょうし、執刀経験なども医師の多い病院に比べて多くなることが期待できます。
デメリット
・途中で辞退ができない ・研修先や就職先が制限される ・規定の期間はその県で働かなくてはならない
もちろん、地域枠にはデメリットもあります。
最大のデメリットは「自分の目標が変わっても、地域枠を途中で辞められない」ということ。
医学部に入る前に「産婦人科医になりたい!」と思っていても、いざ入学して勉強や研修をするうちに別の道のほうが自分に合っているように感じる、というのはよくあることです。
しかし、もし「自分のやりたいことは地域枠の条件と違った。方向転換をしたい」と思っても、一度合格してしまった地域枠の途中辞退は基本的に認められていません。
また、仮に離脱するとなると以下のようなペナルティが課されます。
・奨学金の一括返済(10%ほどの利子あり)
・原則専門医になれない
・離脱者を採用した病院は補助金の減額や募集定員の減員、臨床研修病院の指定を取り消される(=マッチングで採ってくれる病院がなくなる)
「自分には別の道のほうが合っていた」と医学部に入ってからの勉強や研修中に気づいたり、状況が変わってしまうことはよくあります。
しかし、地域枠で合格してしまうと「その医学部を卒業し、卒業後9年間その県内で働く」以外の選択肢がなくなってしまうのです。
また、地域枠では研修先や就職先は指定された病院のうちから選ばなくてはなりません。
ほぼ田舎ですし、医師不足に悩むくらいなので働き始めてからもハードな勤務になることが予想されます。
「こんなはずじゃなかったのに……」と感じても、9年間ほどは指定病院で働き続けなければなりません。
医局人事・ライフイベント・人間関係 あらゆる場面で制約がある
医学部に入学して色んな大学の地域枠の人と友達になると、地域枠の実態で見えてこなかったものが見えてくるようになりました。
まず1つ目は医局人事が関わってくること。医学部卒業後、2年間の初期研修を終えた後は後期研修に進みます。それは病院の医局に入って、「〇〇科の医師」と名乗るために必要になってくる研修です。その県の中でどの科が強いのか、どの医局なら自分の雰囲気に合っているのか、など内部事情はさまざまです。医学部在学中にやりたいこと、目指したいキャリア像が生まれたとしてもそれを実行できるのは地域枠の義務年限が終了したあと、ということもよくあります。
2つ目はライフイベントが左右される、ということです。女性なら出産や育児によって仕事から離れることもあるかと思います。その点を考慮してくれる場合も多いですが、自分の家族の手を借りたいのに近くにいない、夫も違う県の地域枠だから単身赴任にならざるを得ない、などなど自分のライフイベントで自由が効かないということがままあります。
3つ目は形成される人間関係です。地域枠の義務年限は数年としているところがほとんどだと思います。しかし、そこでの研修、医師としてのキャリアを過ごしていくうちにそこに恩師や大切な患者さん、地域住民の人との深い関わりが生まれます。「地域枠で義務年限が終わった後は地元で開業したいな〜」など何かプランがあったとしてもライフプランが大きく変わることがかなりあります。もちろん、医師として働いていく中で大切な人が増えていくことは本当に嬉しいことで、それで良いという人にとってはストレスなく順応できると思います。
医学部地域枠と一般受験のカリキュラムにおける違いはない
以前は、「地域枠のほうが試験は楽」といわれることもありましたが、現在では基本的にそんな事はありません。
まず地域医療に貢献するという強い意志がないと面接で落ちてしまいますし、募集枠が少なく辞退者もいないため一般入試より遥かに高い倍率になることも珍しくありません。
「一般入試で受かりそうにないから」「奨学金が欲しいから」といった軽い気持ちで受けても合格は難しいでしょう。
ちなみに、入学後のカリキュラムについては、地域枠と一般受験とで基本的に差はありません。
ただし、僻地医療についての講義が必修となったり、実習時に特定の地域病院に行くことを指定されたりするケースも。
また、県によってはキャリア形成プログラムに従い、1年時からワークショップや研修を大学の授業とは別に受ける必要があります。
医学部地域枠併設の大学一覧 全国に設けられている
地域枠は、全国すべての都道府県にあります。
県内の大学のみに適用される場合が多いですが、その大学へ行く県民が多い場合は、近隣の県にある大学でも地域枠を設定していることも。
特に東京都にある大学は、埼玉県や千葉県など多くの県の地域枠を設定しています。
2024年に地域枠を設置する大学は以下の通り。
なお、同じ大学内に「県内枠」と「全国枠」など、募集要項が違う地域枠がある場合も合計して表示しています。
詳しくは各大学の募集要項などを参照してください。
国立医学部 35校
大学名 | 都道府県 | 人数 |
弘前大 | 青森 | 47 |
北海道・東北 | 15 | |
東北大 | 宮城 | 7 |
岩手 | 2 | |
秋田大 | 秋田 | 29 |
山形大 | 山形 | 8 |
筑波大 | 茨城 | 36 |
群馬大 | 群馬 | 16名程度 |
千葉大 | 千葉 | 20 |
新潟大 | 新潟 | 40 |
東京医科歯科大 | 茨城 | 5名以内 |
長野 | 5名以内 | |
埼玉 | 5名以内 | |
富山大 | 富山 | 15名以内 |
金沢大 | 石川 | 10 |
富山 | 2 | |
福井大 | 福井 | 20名程度 |
山梨大 | 山梨 | 35名以内 |
信州大 | 長野 | 25 |
岐阜大 | 岐阜 | 28 |
浜松医科大 | 静岡 | 15 |
名古屋大 | 愛知 | 5 |
滋賀医科大 | 滋賀 | 7 |
三重大 | 三重 | 35 |
神戸大 | 兵庫 | 10 |
鳥取大 | 鳥取 | 25 |
兵庫 | 2 | |
島根 | 5 | |
島根大 | 島根 | 22 |
岡山大 | 岡山 | 4 |
鳥取 | 1 | |
広島 | 2 | |
兵庫 | 2 | |
広島大 | 広島 | 18 |
山口大 | 山口 | 44 |
徳島大 | 徳島 | 17 |
香川大 | 香川 | 14 |
愛媛大 | 愛媛 | 20 |
高知大 | 高知 | 5 |
佐賀大 | 佐賀 | 4 |
長崎 | 1 | |
長崎大 | 長崎 | 30 |
佐賀 | 2 | |
宮崎 | 2 | |
熊本大 | 熊本 | 8 |
大分大 | 大分 | 13 |
鹿児島大 | 鹿児島 | 20 |
琉球大 | 沖縄 | 14 |
離島・北部 | 3 |
公立医学部 9校
大学名 | 都道府県 | 人数 |
旭川医科 | 北海道 | 42 |
札幌医科 | 北海道 | 35 |
福島県立医科 | 福島 | 30名以内 |
横浜市立 | 神奈川 | 30 |
名古屋市立 | 愛知 | 7 |
京都府立医科 | 京都 | 7 |
大阪公立 | 大阪 | 5 |
奈良県立医科 | 奈良 | 38 |
和歌山県立 | 和歌山 | 24 |
私立医学部 20校
大学名 | 都道府県 | 人数 |
岩手医科大 | 岩手 | 12 |
東北医科薬科 | 東北地方 | 55 |
獨協医科 | 栃木 | 5 |
埼玉 | 2 | |
新潟 | 2 | |
茨城 | 2 | |
杏林 | 東京 | 10 |
新潟 | 2 | |
順天堂 | 東京 | 10 |
新潟 | 1 | |
千葉 | 5 | |
埼玉 | 10 | |
静岡 | 5 | |
茨城 | 2 | |
昭和 | 新潟 | 7 |
静岡 | 8 | |
帝京 | 福島 | 2 |
千葉 | 2 | |
静岡 | 2 | |
茨城 | 1 | |
東邦 | 千葉 | 2 |
新潟 | 6 | |
日本 | 埼玉 | 5 |
茨城 | 3 | |
新潟 | 4 | |
静岡 | 3 | |
日本医科 | 千葉 | 7 |
埼玉 | 2 | |
静岡 | 4 | |
新潟 | 2 | |
東京 | 5 | |
北里 | 神奈川(相模原市) | 2 |
東海 | 神奈川 | 5 |
静岡 | 3 | |
愛知医科 | 愛知 | 5 |
藤田医科 | 愛知 | 10 |
近畿 | 大阪 | 3 |
奈良 | 2 | |
和歌山 | 2 | |
静岡 | 10 | |
川崎医科 | 岡山 | 10 |
静岡 | 10 | |
長崎 | 6 | |
大阪医科薬科 | 大阪 | 2 |
聖マリアンナ医科 | 神奈川 | 7 |
東京医科 | 茨城 | 8名以内 |
埼玉 | 2名以内 | |
新潟 | 3名以内 | |
久留米大 | 福岡 | 5 |
地域枠はたくさんの医学部にありますね!またこれからも増員することが予想されます。
自分のキャリアと相談して地域枠を選ぼう
9年間その県に拘束される代わりに、奨学金を給付する地域枠。
「地域に貢献したい」「金銭的に奨学金がないと医学部は難しい」という人には嬉しい制度ですが、その反面「キャリアが固定されてしまう」「辞退が許されない」と厳しい面もあります。
返済不要の奨学金、という点は大きいですが、自分のなりたい医師像とマッチしていないとただ辛いだけの返済期間になってしまうかもしれません。
地域枠を利用しようかな、と考えているのであれば、入試前の時点で自分の医師としてのキャリアや専門についてしっかり考えておく必要があるでしょう。